同潤会最後のアパートメントの建替え
1972年には建替えの検討が始まっていた
同潤会江戸川アパートメントは、昭和9年に建築された同潤会最後のアパートメントです。創建当初はエレベーターや集中暖房等を備え、東洋一のアパートと言われていましたが、1960年代中頃から一号館の一部が傾きはじめました。そこで、1972年には建替えについて検討が始まり、住民の間で建替えを検討するための委員会がつくられました。
その後、多くのディベロッパーや建設会社などと建替えの協議を行いましたが合意には至らず、その間にも外壁やバルコニーなどのコンクリートは剥離し、設備の老朽化も進行、アークブレインに「江戸川アパートの保存と建替えを手伝ってもらえないか」という依頼があった1998年夏には、住民の日々の暮らしにも危険が及ぶ状況となっていました。
このとき、住民の間ではディベロッパーに頼らない自主建替えを検討していました。
厳しい事業条件の中で
同潤会江戸川アパートメントでは、区分所有者の多くが経済的余裕のない高齢者でした。そのため、こうした方々が建替えに参加できる事業スキームが必要でした。しかし、当アパートの敷地条件は厳しく、建替えによる専有面積の増加はそれほど期待できず、同じ専有面積の住戸を取得するためには追加負担が必要となるような状況でした。
そこで、まず、管理組合法人が借金で建物を建替え、居住者は組合から賃借する方法を考えました。しかし、組合として資金を借りるには、理事全員の連帯債務が必要ということが判明し、この案は却下されました。次に、区分所有者の権利を信託銀行などに信託する信託方式を考えました。通常の区分所有床と信託方式による床を選択できる案を作成しましたが、この方法は複雑で管理上難しいということと、信託方式に馴染みがないという点で支持が得られませんでした。
その後、建替え執行部に批判的なグループが活発な動きを見せるなかで、全員合意による建替えは厳しい状況だったこともあり、区分所有法62条の建替え決議による建替えの検討が始まりました。
ところが、建替え計画案は、南側の隣地を含む案であり、しかも、社交室や浴室・食堂などの共用施設を含む一号館の一部を保存再生したいという難題が含まれていました。当時の区分所有法62条では、同一敷地での建替え以外は建替え決議による建替えは認められていませんでした。また、一部保存とする場合、保存予定の一号館の一部が日影規制などにおいて既存不適格となるため、建築基準法の適用除外を受ける必要がありました。そこで保存部分を区の景観条例の対象とすることを試みましたが、景観条例の対象とするには、区分所有者全員の同意が必要という東京都の見解が示されました。
3つの決断
こうした中で、早期再建を目指すために、3つの決断が下されました。第一は、自主建替えを断念し、信頼できるディベロッパーを選定して、共に合意形成を進めていくこと、第二は、区分所有法62条の建替え決議による建替えを行うこととし、そのために隣地の組入れは断念すること、第三は、組合員の生活の場であり、大切な財産である区分所有建物の早期再建を優先し、建物の一部保存は断念すること、の3つでした。
こうして、自主建替えを断念し、事業協力者コンペを実施することとなりました。その後、2001年に事業協力者として旭化成ホームズが選定され、建替えに向けて本格的に進みはじめることとなりました。
ついに建替えが実現
建物の一部保存は断念することとなりましたが、6階屋上部分に回遊式の屋上庭園を設け、これまでの江戸川アパートメントのシンボルでもあった中庭の緑地環境をできる限り再現、住戸プランも、区分所有者の意見をきめ細かく取り入れ、居住者ニーズにあった多様なプランが用意されました。また、高齢者に対しては仮住居の斡旋や再建後のマンションの一室を規約共用部分として使用貸借で生涯居住できるような案がまとまりました。
そして、2002年3月に棟別の建替え決議が成立、建替え決議に最終的に不賛成であった8名の従前区分所有者に対しては売渡請求訴訟が行なわれました。
高齢の居住者が多い上に平均還元率約53%という厳しい条件にもかかわらず、2005年6月、無事に建替えは実現に至りました。
事業概要
所在地 | 東京都新宿区新小川町1丁目 | |
交通 | 東京メトロ「飯田橋」駅徒歩8分 | |
権利形態 | 土地:所有権の共有、建物:区分所有権 | |
事業手法 | 任意等価交換 | |
デベロッパー | 旭化成ホームズ | |
施工 | 竹中工務店 | |
特徴 | ・同潤会最後のアパートメントの建替え ・床面積の平均還元率約53%という厳しい条件にもかかわらず実現 ・売渡し請求を行う場合の時価について明快な判決を得る |
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建替え前 | 建替え後 | |
建築時期 | 昭和9年築 | 平成17年5月竣工 |
敷地面積 | 6,813.70㎡ | 6,813.70㎡ |
延床面積 | 20,214.26㎡ | |
階数・棟数 | 2棟 1号棟:地上6階地下1階 2号棟:地上4階 |
1棟 地上11階地下1階 |
構造 | 鉄筋コンクリート造 | 鉄筋コンクリート造 |
総戸数 | 258戸 | 232戸 |
住戸規模 | 30~107㎡ |
区分所有法第62条に基づく「売渡請求権行使時の時価」についての論文
同潤会江戸川アパートメント建替え事業の売渡請求訴訟(東京地方裁判所平成14年(ワ)第27896号建物明渡等請求事件、東京高等裁判所平成16年(ネ)第1559号建物明渡等請求控訴事件)において、全面的に認められた見解です。
アークブレインの主な支援内容
・建替え事業の事業方式に係わるコンサルティング
・建物の一部保存についての検討
・隣地を含めた建替え計画の事業スキームの検討
・建替え事業に関する権利者ヒアリング調査
・事業協力者の選定に係わるアドバイス
・事業協力者と組合との契約に関するアドバイス
・建替え決議の準備に係わるアドバイス
・売渡請求時の時価についての鑑定評価
・売渡請求の裁判に係わる対応